データ入力というのに架電業務

5年ほど前の話になりますが、当時工場に勤めておりました。半導体の工場の検査部門におりましたが、東日本大震災の影響で工場が閉鎖され、職を失ってしまいました。二年ほど勤めた職場で仕事内容も人間関係にもさほど不満がなかっただけに、大変残念な出来事でした。

それからしばらくして、データ入力の仕事が募集しておりましたので応募しました。携帯電話会社の販売代理店から送られてくる申し込み用紙のFAXをパソコンの専用アプリにてデータ入力する、という内容で、前の職場とはだいぶ仕事の内容が変わりますが、私生活で長くパソコンを使ってたため自分のスキルを活かせると思い応募しました。

いざ働いてみるととまどうことばかりでした。まず、一番驚いたのは『少し』と言われていた架電業務がしょっちゅうあることです。販売代理店から送られてくるFAXに誤記入や字が汚くて読めないものが多く、その都度お店に電話して確認しなくてはなりません。電話応対の研修も事前にありましたが、本当に最小限とも思えないくらいあっさりとした内容だったので初めて架電するときは緊張と不安でいっぱいだったことを今でも覚えています。

この架電業務の多さと、時折電話相手の代理店の方からのお叱りの声に辟易した、というのがこの仕事を半年で辞めた一番の理由です。入ってからわかったことですが、ここの職場は人の入れ替わりが非常に多く、それほど事前に聞かされていたデータ入力という仕事と実際に行う架電業務の多さにギャップがあった、ということなのだと思います。この職場で学んだことは、架電業務が少しでもあるということはたくさん電話をしなくてはならない可能性がある、ということです。

架電業務が苦にならない方なら全く問題はないのでしょうが、自分のように工場で働いてきた人間にとって、知らない人と電話で話すということは結構抵抗があるものです。ましてや、架電するたびにいい反応をされない、またはストレートに怒られてしまうのではモチベーションが上がろうはずがありません。

また、もうひとつ驚いたことはあまりの会社側の管理体制のずさんさです。この業界全てがそうではないのだと思いますが、少なくとも私のいた職場はたくさんいるオペレーターに対し管理者の数が圧倒的に不足し、その結果作業手順や休憩時間などが守られていない事態が慢性的に発生していました。そもそも、辞める人間が多すぎて補充する人間が追い付かず、結果的に素行に問題がある人まで雇っているようにさえ見えました。

注意深く観察していると、一時間の休憩を三時間とったりする輩、架電が必要な案件をこっそりと他人に押し付けてしまう輩など、まるで働きアリの何割かは働いていないという構図をそのまま当てはめたかのような光景です。通常であればそのような人たちには然るべき指導がされるべきだったのでしょうが、少なくとも私にはそのような指導が行われている様子を確認することができませんでした。さぼっている人間が何人いようとも、全体として帳尻がとれていれば問題としないと言わんばかりの会社としての体制にはうんざりとさせられたものです。以前いた工場などは、さぼりなどすれば一発でわかるし一つのミスにより同僚はおろか他の工程の方々にまで迷惑をかけてしまう、という緊張感と責任感が常にありましたが、この職場ではまじめにやっている人間ほど損をするシステムのようです。

そのようなことが続き、いつしか体調を悪くするほどのストレスをため込んだ私は半年後に限界に達し、土下座せんとばかりの勢いで辞意を申し出ました。半年もすればそれなりのベテラン扱いをされてしまうのがこの職場の怖いところで、引き止められはしましたが続ける気力があるはずもなく、かなり強引な形で辞めさせていただきました。今にして思えば、データ入力イコール楽な仕事という幻想を抱いていたのかもしれません。

以来、転職に当たっては半ばトラウマと化した架電業務があるのかないのか、あるとしたらどの程度のものなのかをよく確認するようにしています。データ入力、という仕事があっても看板通りに受け止めずに、全体としてどのような業務に携わる可能性があるのか、可能な限り確認して納得したうえで新しい仕事を始めたいものですね。